豊川稲荷は「稲荷」という名がついているため神社と思われやすいですが、正式には曹洞宗の寺院「円福山豊川閣妙厳寺」です。参拝作法は神社の二礼二拍手一礼ではなく、仏教式の合掌と御真言が基本となります。
「拍手をしていいのか」「御真言は何と唱えるのか」――こうした疑問を持ったまま参拝するのは少し心もとないものです。正しい流れを事前に把握しておくと、境内での動き方も自然にスムーズになります。
この記事では、豊川稲荷の基本的な成り立ちから、手水・本殿での礼拝・奥の院参道の順路・御朱印の受け方まで、参拝当日に役立つ情報を順に整理します。初めて訪れる方にも、久しぶりに再訪する方にも参考にしていただけます。
豊川稲荷はお寺――参拝前に知っておくべき基礎知識
豊川稲荷を正しく参拝するには、まずその性格を理解しておくことが大切です。神社と寺院では礼拝の形式が根本的に異なるため、「稲荷=神社」という先入観を持ったまま訪れると、作法を間違える可能性があります。
正式名称と宗派
豊川稲荷の正式名称は「円福山豊川閣妙厳寺(えんぷくさん とよかわかく みょうごんじ)」です。曹洞宗に属する寺院であり、愛知県豊川市豊川町1番地に所在しています。
嘉吉元年(1441年)、曹洞宗の僧・東海義易によって創建されました。室町時代には今川義元が伽藍の整備に関わり、現在地への移転を経て、現存する堂宇の多くは江戸時代末期から近代にかけて再建されたものです。
「豊川稲荷」という通称が広く定着しているために神社と混同されやすいですが、鳥居や狛狐が境内にあるのは、御本尊である豊川吒枳尼眞天(とよかわだきにしんてん)の信仰的背景によるものであり、神道の施設ではありません。
御祭神ではなく御本尊――豊川吒枳尼眞天とは
豊川稲荷にお祀りされているのは「豊川吒枳尼眞天(とよかわだきにしんてん)」です。吒枳尼天はインド仏教に起源を持つ女神で、白狐に乗り、稲穂や宝珠を持つ姿で描かれます。
神道系の稲荷神社でお祀りしているのは「宇迦之御魂(うかのみたま)」という神であり、同じ「稲荷」という名でも、豊川稲荷は異なる信仰体系に属します。使いがキツネである点は共通していますが、礼拝の形式・御真言・唱えことばはすべて仏教式です。
豊川稲荷のホームページでは、妙厳寺を「曹洞宗の寺院」と明記しており、神社式の参拝作法(二礼二拍手一礼)は適用されません。
日本三大稲荷の一つとしての位置づけ
豊川稲荷は日本三大稲荷の一つに数えられています。ほかには京都の伏見稲荷大社、そして佐賀県の祐徳稲荷神社または茨城県の笠間稲荷神社が挙げられます。
年間参拝者数は約500万人とされており、商売繁盛・家内安全・開運のご利益を求めて全国から参拝者が訪れます。境内面積は約12.73ha(三万千百五十一坪)で、堂塔伽藍は大小90余棟にのぼります。
正式名称:円福山豊川閣妙厳寺
宗派:曹洞宗
所在地:愛知県豊川市豊川町1番地
TEL:0533-85-2030(電話受付 9:00〜17:00)
参拝作法:仏教式(合掌・御真言) ※二礼二拍手一礼は不可
- 豊川稲荷は曹洞宗の寺院「妙厳寺」であり、神社ではない
- 御本尊は豊川吒枳尼眞天(仏教系の女神)
- 神道式の拍手による参拝は誤りとなる
- 境内には鳥居や狛狐があるが、これは仏教信仰に基づく
- 年間参拝者は約500万人、日本三大稲荷の一つ
豊川稲荷の正しい参拝方法と御真言
豊川稲荷での参拝は、一般的な神社の作法とは異なる手順で行います。手水から本殿での礼拝まで、各ステップで何をすべきかを事前に把握しておくと、境内での動き方に迷わずに済みます。
手水舎での清め方
境内に入り参道を進むと、手水舎があります。参拝前には手水舎で手を清めておきましょう。ひしゃくを右手で持ち左手にかけ、次に左手でひしゃくを持ち右手にかけます。最後に両手で水を受けて口をすすぐのが一般的な作法です。
豊川稲荷は寺院ですが、手水の作法は神社の場合と大きく変わりません。清潔な所作で臨むことが大切であり、次の方のために使い終わったひしゃくは元の位置に伏せて戻します。
本殿での礼拝手順と御真言
本殿に到着したら、まずお賽銭をお供えします。次に合掌して、以下の手順で礼拝を行います。
豊川稲荷の公式サイトの御祈祷案内では、御祈祷中は「南無豐川吒枳尼眞天(なむとよかわだきにしんてん)」と、御真言「オン シラバッタ ニリウン ソワカ」を唱えながら念じることが示されています。一般参拝の場合も、本殿前で合掌した状態でこの御真言を7回唱えるのが正式とされています。
この際、神社でよく行われる「柏手(拍手)」は行いません。豊川稲荷は寺院であるため、拍手の作法は適用されず、合掌で礼拝するのが基本です。拍手をしてしまう参拝者も少なくないとされていますが、参拝前に把握しておくと安心です。
1. お賽銭をお供えする
2. 合掌して御宝号「南無豐川吒枳尼眞天」と3回唱える
3. 御真言「オン シラバッタ ニリウン ソワカ」を7回唱える
4. 合掌のまま一礼して参拝を終える
※柏手(拍手)は行わない
御真言の意味と唱え方のポイント
「オン シラバッタ ニリウン ソワカ」は梵語(サンスクリット語)を音写した真言(マントラ)です。真言は仏・菩薩・諸天の本質を凝縮した言葉とされ、唱えることで功徳が生じるとされています。
唱える回数は7回が基本とされており、21回唱えることもあります。唱える際は声に出しても心の中で念じても構いませんが、合掌したまま心を集中させるのがよいとされています。難しく考えすぎず、丁寧な気持ちで臨むことが大切です。
その他のお堂での参拝
本殿での参拝を終えたら、境内の各お堂もお参りするとよいでしょう。大黒堂では「オンマカキャラヤソワカ」の御真言を唱えながら大黒天像をさすることができます。弘法堂では弘法大師をお祀りしており、奥の院は文化11年(1814年)建築の歴史ある堂宇です。
各お堂の礼拝もすべて合掌による仏教式が基本です。境内が広いため、すべてのお堂をゆっくり回ると1時間以上かかることもあります。時間に余裕を持って訪れるとよいでしょう。
- 参拝の基本は合掌と御真言「オン シラバッタ ニリウン ソワカ」
- 御真言は7回(または21回)唱えるのが正式
- 拍手は行わず、合掌のまま礼拝する
- 大黒堂など各お堂にもそれぞれ御真言がある
境内の見どころと参拝順路
豊川稲荷の境内は面積約12.73haと非常に広く、見どころが多数あります。主な堂宇の位置関係と巡り方を把握しておくと、限られた時間でも要所を押さえた参拝ができます。
総門から本殿へ――参道の歩き方
最寄り駅から徒歩5分ほどで総門に到着します。総門は明治17年(1884年)に改築されたもので、境内への入り口となっています。総門をくぐると山門があり、こちらは天文5年(1536年)に今川義元が寄進した建物で、境内現存建築の中で最も古いものです。
山門を抜けると広い境内に出ます。正面に参道が伸び、一の鳥居・二の鳥居と進みながら本殿へと向かいます。参道の両脇にはブロンズ製の狛狐が並び、稲荷信仰の雰囲気を色濃く感じられます。本殿前には常香炉があり、お線香の香りが境内に漂います。
千本幟・奥の院・霊狐塚の回り方
本殿での参拝を終えたら、本殿向かって右側から奥の院参道へと進みます。この参道には千本幟(せんぼんのぼり)がはためいており、全国の信者が祈願成就の記念として奉納した幟が数えきれないほど立ち並びます。
奥の院参道を進むと、弘法堂・大黒堂・奥の院(本堂)が続きます。さらに奥には霊狐塚があり、信者が祈願成就の御礼として奉納した大小無数の狐像が並ぶ独特の光景を見ることができます。混雑時には霊狐塚への入場制限が行われることがあります。
景雲門から御朱印所へ――参拝動線の最後

霊狐塚から奥の院を経て進むと、安政5年(1858年)創建の景雲門をくぐることができます。景雲門をくぐると御朱印所の近くに出てくる動線になっており、参拝の最後に御朱印を受けるのに都合の良い位置関係です。
御朱印所は本殿前の二の鳥居(大鳥居)横に設けられています。参拝前に御朱印帳を預けておき、参拝後に受け取る形をすすめられることがあります。この点は後述の御朱印セクションで詳しく整理します。
| 場所 | 特徴 | 所要の目安 |
|---|---|---|
| 総門・山門 | 最古の建築は1536年今川義元寄進 | 通過のみ |
| 本殿(大本殿) | 豊川吒枳尼眞天をお祀り/御祈祷もここで | 5〜10分 |
| 千本幟参道 | 信者奉納の幟がびっしりと並ぶ独特の光景 | 5分 |
| 奥の院・各堂宇 | 弘法堂・大黒堂・万堂など | 15〜20分 |
| 霊狐塚 | 奉納された無数の狐像/混雑時入場制限あり | 10〜15分 |
| 御朱印所 | 二の鳥居横/参拝後に受け取る流れが多い | 10〜20分(待ち時間次第) |
- 総門→山門→本殿→奥の院参道(千本幟)→霊狐塚→御朱印所の順が基本的な動線
- 境内は広く、ゆっくり巡ると1〜2時間かかる
- 霊狐塚は混雑時に入場制限あり
- 御朱印は参拝前に預けて参拝後に受け取る流れをすすめられることがある
御祈祷の流れと受付時間
豊川稲荷では一般参拝のほかに、正式な御祈祷を申し込むことができます。商売繁盛や家内安全・厄年祈願など、個人的な願い事を本殿で読み上げてもらう形式で、参拝の中でも特に丁寧な形です。
御祈祷の受付場所と時間
御祈祷の受付時間は、毎日午前8時から午後2時30分まで(正月三が日・毎月1日を除く)です。毎月1日は午前5時から受付が始まります。御祈祷時間の15分前には受付を済ませておく必要があります。
事前予約は受け付けていませんが、団体の場合は祈祷予約専用FAX(0533-85-2090)での対応が可能です。個人参拝の場合は当日受付のみとなります。最新の受付時間は豊川稲荷公式サイトの「御祈祷の流れ」ページでご確認ください。
御祈祷料と手順
御祈祷料は1名につき3,000円以上の御志(おこころざし)です。4,000円以上の御祈祷の場合は、御祈祷後に精進料理「点心」の接待があります。受付では祈願票に祈願内容・住所・氏名を記入して提出します。祈願内容は家内安全・商売繁盛・厄難消除など19の願目から選ぶ形式です。
御祈祷中は本殿に入り、読経が終わると住所と氏名・祈願内容が読み上げられます。その際、参拝者は心静かに「南無豐川吒枳尼眞天」「オン シラバッタ ニリウン ソワカ」と唱え、願い事を念じます。御祈祷後は御祈祷料に応じたお札が授与されます。
授与品の種類と受付時間
お守りやお札などの授与品は、授与所にて午前8時から午後3時50分まで受け付けています。きつね御守・御影守・開運守・豊川守など多くの種類があります。なお、授与品の一部は郵送でも受け取ることができます。
授与品の郵送を希望する場合は、豊川稲荷公式サイトの郵送案内ページから申し込み方法を確認できます。ただし御朱印は郵送対応を行っていません。授与品の種類・価格は変更されることがありますので、最新情報は公式サイトの「授与品・御朱印」ページをご参照ください。
御祈祷受付:毎日 8:00〜14:30(毎月1日は5:00〜14:30)
授与所受付:毎日 8:00〜15:50
※事前予約不可(団体除く)
※受付時間は変更になる場合があります。最新情報は豊川稲荷公式サイト「御祈祷の流れ」をご確認ください。
- 御祈祷受付は毎日8:00〜14:30(毎月1日は5:00〜14:30)
- 御祈祷料は1名3,000円以上の御志
- 4,000円以上で精進料理「点心」の接待あり
- 個人の事前予約は不可
- 授与品は一部郵送対応あり/御朱印の郵送は不可
御朱印の受け方と御朱印帳の選び方
豊川稲荷では参拝の記念として御朱印を受けることができます。御朱印所の場所・受付時間・種類・御朱印帳について整理しておくと、参拝当日に迷わず動けます。
御朱印所の場所と受付時間
御朱印所は本殿前の二の鳥居(大鳥居)横に設けられています。御朱印の受付時間は午前8時から午後4時までです。帳面への直書き(記帳)は午後3時30分までで、それ以降は書き置き対応となります。御朱印の郵送対応はありません。
混雑時には御朱印帳を参拝前に預け、参拝中に記帳してもらい、参拝後に受け取る運用が案内されることがあります。番号札を受け取り、参拝後に引き換える形です。参拝当日の混雑状況に応じて現地の案内に従うとスムーズです。
御朱印の種類と初穂料
豊川稲荷の公式サイトによると、通常の御朱印は豊川吒枳尼眞天・千手観世音菩薩・大聖不動明王・長寿薬師如来の4種類で、直書き・書き置きいずれも初穂料は1体500円です。
限定の切り絵御朱印(初穂料500円)は季節ごとにデザインが変わり、春の花ざかり・夏の花火・新春の宝船など、時期によって異なるものが頒布されます。また、見開き2ページ分の大判御朱印(初穂料1,000円)も複数種類あります。限定・季節御朱印の最新情報は豊川稲荷公式サイトまたは現地でご確認ください。
御朱印帳の選び方と注意点
豊川稲荷では境内でオリジナルの御朱印帳を受けることができます。キツネをモチーフにしたデザインが人気で、複数の種類が用意されています。御朱印帳は授与所ではなく御朱印所で取り扱っていることが多いため、現地での確認が必要です。
なお、御朱印帳の通販については、豊川稲荷の授与品郵送サービスで一部の授与品が郵送対応可能とされていますが、御朱印帳の郵送対応の有無については公式サイトに明記されていません。希望される場合は豊川稲荷(TEL:0533-85-2030)に直接問い合わせるとよいでしょう。
御朱印帳の持参と「寺院用」「神社用」の区別
御朱印集めを続けている方の中には、神社用と寺院用で御朱印帳を分けている方もいます。豊川稲荷は仏教寺院ですので、寺院用の御朱印帳に記帳してもらうのが自然です。ただし、分けること自体はマナー上の義務ではなく、本人の判断で問題ありません。御朱印帳は参拝前に手元に用意しておくと、受付がスムーズになります。
- 御朱印所:二の鳥居(大鳥居)横
- 受付時間:8:00〜16:00(直書きは15:30まで)
- 通常御朱印は4種類、初穂料各500円
- 切り絵御朱印・大判御朱印など限定品もあり
- 御朱印の郵送対応なし
まとめ
豊川稲荷への参拝は、「神社と同じでいいだろう」という前提を一度外しておくことが出発点です。曹洞宗の寺院として御真言を唱える仏教式の礼拝が正しい作法であり、合掌を基本とした姿勢で臨むことで、御本尊への丁寧なお参りができます。
初めて訪れる場合は、総門から本殿・奥の院参道・霊狐塚・御朱印所という基本的な順路をなぞるだけでも十分です。参拝前に御朱印帳を御朱印所に預け、参拝後に受け取るという流れを頭に入れておくと当日の動きが整います。
豊川稲荷の広い境内には、千本幟・霊狐塚・景雲門など、ほかの寺社ではなかなか見られない独特の光景があります。参拝の作法を知ったうえで訪れると、境内の一つひとつの場所が持つ意味もより身近に感じられるはずです。

